数学物語 (角川ソフィア文庫)
数学物語 (角川ソフィア文庫) [Kindle版]


矢野健太郎が書いた数学の参考書だ。そう、高校時代の問題集。内容は参考書や問題集の域を超えていた。『解法のテクニック』と『解法の手びき』があった。両方とも持っていた。全学年、買っていた。高校生活でいちばん手に取った書物だと思う。愛読書だった。

って書くと、かっこいいね、少し。なんか、ものすごく勉強していたみたいで。ふむ。実は謙遜でもなく何でもなく、勉強していなかった。たしかに数学はしていたけれど、逆にいうと数学しか勉強していなかった。たぶん、趣味の域に近い。受験勉強もちゃんとしていないし。要領……そう、要領だけで、この期間をくぐりぬけた。

矢野健太郎の思考には多大な影響を受けた

『解法のテクニック』は理数系の学部をめざす人たちのある種、バイブル的な書物だった。ただ単に正解が求められたらOKという世界ではなく、正解に至るまでの数学的な美学や奥深さなんかを感じさせてくれた。当時、これに影響を受けた人、かなりいたと思うんだけどね。

『解法のテクニック』『解法の手びき』以外の著作も読んだ。たしか、新潮文庫あたりから数冊出ていたはず。『アインシュタイン伝』や『数学への招待』など。でも、今は絶版なのかな。現在読めるやつでいうとこれぐらいか。





矢野健太郎にエレガントな数学を教えてもらった

初めに買ったのは『解法の手びき』。高校1年のときだ。こちらのほうが簡単に見えた。例題があって、その下に解答が書いてあった。簡単=楽ではない。重要なのは過程だ。その過程が見事にエレガントだった。

すぐに『解法のテクニック』も買いに行った。そこには、さらにエレガントな数学の世界があった。完全にハマった。高校の数学は、現代数学の基礎であることも知った。参考書でも問題集でもなく、矢野健太郎が高校生向けに書いた、数学へ誘惑する本だった。





矢野健太郎の思考は刺激に満ちていた

矢野健太郎が亡くなったのは1993年。『解法のテクニック』は名前だけを残して、別の人が書いたものに変わった。出版元の科学新興社がどうなっているのかも知らない。持っていた参考書や問題集は20歳前後に処分したような記憶がある。活字中毒だったからね。本棚に入り切らない単行本や文庫本が部屋に散乱していた。

それでも、10代の半ばに刷り込まれた思考は未だに残っている。自分の中にね。ヘタな小説やノンフィクション本よりはずっと知的な好奇心を満たしてくれた。知の流れというか論理の流れは普段の生活を送っていても、思考の奥底に眠っている。矢野健太郎の著作物と出会っていなければ、今の自分はいない。

そう、言い切れる。


数学の考え方 (講談社学術文庫)
矢野 健太郎
講談社
2015-08-11



「高校生のときの愛読書は?」と尋ねられたら、即答できる。
「解法のテクニックと解法の手びきだよ」と。


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