『アイデン & ティティ』は2003年12月公開の映画です。1980年代後半、世の中はバンドブームに沸き返っていました。そのブームに乗ってデビューしたバンドのギタリスト、中島は「売れる音楽」と「自分たちのやりたい音楽」の間で悩みます。

ある夜、中島の部屋にボブ・ディランに似たロックの神様が現れます。ロックの神様はそれからたびたび彼の目の前に現れるようになり、中島は本当にやりたいことができていない自分を恥じるようになります。

本当に自分たちのやりたい音楽へ突き進む

中島は苦悩しながらも、彼女以外のファンの女の子と寝て「ロックじゃねえ」と言ってみたり、ロックの神様の姿を見て悩んだりと迷走しますが、ある日「自分が今やりたい曲」をリハーサルの時に持ち込みます。

しかしメンバーから反発をくらい、彼女の家に逃げ込みます。もともと「オリジナル曲をやったらいいよ」とボブ・ディランのレコードを手渡してくれたのが彼女だったのです。しかし、中島の首筋のキスマークを見つけ、部屋を叩きだされます。

そうして散々に悩んだ挙句、中島は「やりたい音楽をやる」という選択をし、新曲を作ります。メンバーもその曲に感動し、彼らは「売れる音楽」より「やりたい音楽」を選んでいくのです。

 

原作はみうらじゅんの小説『アイデン & ティティ』

原作はみうらじゅんの『アイデン & ティティ』です。彼は無類のボブ・ディラン好きであり、劇中で曲が多く使用されているのは脚本を英訳したものをボブ・ディラン本人に送って交渉をして、許可を得てのことです。その後、劇中で使わわれたボブ・ディランの曲を集めたコンビレーション・アルバム『アイデン&ティティ』も発売されました。

アイデン&ティティ
みうら じゅん
青林堂
1992-12


監督は田口トモロヲ、脚本は宮藤官九郎

監督は俳優としても活躍している田口トモロヲで、この映画が初監督作品です。多少不慣れな感じも見受けられますが、それも初々しさとして観ることができます。脚本は宮藤官九郎です。やはり伏線の回収や小ネタの挟み方がとてもうまく、優秀な脚本家だな、と改めて実感します。

個性の強い俳優陣をキャスティング

バンド「SPEED WAY」のメンバー。主人公でギターは銀杏ボーイズの峯田和伸。ボーカルのジョニーはちょうど映画『ピンポン』で注目を集めた中村獅童。ベースのトシは今や演技派で引っ張りだこの大森南朋。ドラムの豆蔵は元ジョビジョバのマギー。中島の彼女で女神的な役割の麻生久美子。これだけでも相当に個性の強いメンツが揃っています。

その他、事務所の社長に岸部四郎。居酒屋の店長とてフォークシンガーの三上寛。編集者役で大杉漣。その他にも浅野忠信や、村上淳、ピエール瀧、それから人間椅子などバンドブーム時に人気のあった色々なバンドメンバー、当時のみうらじゅんのバンド「大島渚」もちらっと出演しています。

青臭くてダサい、それがいい

『アイデン & ティティ』という映画はいわゆる感動巨編でもなく、ある一時代の、一部分の人たちの苦悩や葛藤を描いた青春映画です。今やバンドをするのにも、こんなに泥臭く、ボブ・ディランを聴いて悩むような人もいないでしょう。

しかし、この時代に、音楽を好きだったり、バンドをやっていた人であれば、出演者の青臭さが思わず自分に重なって、赤面してしまうような場面もたくさんあると思います。そしてもっとスマートにバンド活動をしている、今の若い人たちにも「ダサい」と笑いながらでいいので、ぜひ観てほしいと思います。こういうダサいことを繰り返して、今のスマートな音楽環境があるのですから。

ちなみにこの「SPEED WAY」というバンドの演奏は、ヘタです。でもそこも味なので、興味があればサントラ盤を聴いてみてください。

アイデン&ティティ
ボブ・ディラン
Sony Music Direct
2004-06-02

 
 青臭くて何が悪い!それが『アイデン & ティティ』だ!

『アイデン & ティティ』は青臭くて、ダサくて、間違いなく時代遅れな青春映画です。ただ、ある種の人の心に訴えかける何かは確実にある映画です。劇中に流れるボブ・ディランの曲と、主人公たちの無様すぎるくらいの言動に胸が熱くなる人は、きっと青臭い何かを持っているのでしょう。もしもそれを笑われたら、こう言ってやりましょう。「青臭くて何が悪い!」と。
 
アイデン & ティティ [DVD]
峯田和伸
東北新社
2004-08-27



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madokajee

旅と音楽と本と映画が好き。別名義でWebライターとして活動中。
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