レディオヘッドの『ライヴ・アット・ザ・アストリア』は94年5月にロンドンで行われたライブの模様を収録したものである。全17曲、セットリストは、93年のデビュー作『パブロ・ハニー』が中心だ。95年の2枚目『ザ・ベンズ』から数曲選ばれている。





2005年にはDVD化された。現在のレディオヘッドは違い、オルタナティヴ・ロックの影響を受けた、良い意味で荒っぽいギターを全面に押し出した演奏である。他にも公式としての映像作品は発売されているが、それらはドキュメンタリーやミュージックビデオ集、スタジオライブなどで、純粋な意味でのライブ映像はこれだけしかない。

シングル曲「クリープ」の一発屋?

94年はカート・コバーンの自殺によるグランジの終焉と、ブラーの『パークライフ』のヒットによるブリットポップの始まりの年だった。オアシスが1stアルバム『オアシス』を、パルプが『彼のモノ・彼女のモノ』を発表した。その波に追従するように多くのバンドがデビューし、そして消えていった。

92年に発売しスマッシュヒットした「クリープ」は、そんなブリットポップの台頭に消え去る一発屋レディオヘッドの一曲と思われていたとしても不思議じゃない。

実際、93年に発売したシングルはそれほどヒットしなかった。「ザ・ベンズ」からの先行シングル「マイ・アイアン・ラング」では曲の後半でこんなふうに歌っている。

This, this is our new song
Just like the last one
A total waste of time
My iron lung

ひねくれた歌詞だ。新曲が最後の曲みたいで、時間のムダだと歌っている。完全に「クリープ」への自虐なんだろう。

But I'm a creep, I'm a weirdo
What the hell am I doing here?
I don't belong here.

こんな「クリープ」のサビを観客と一緒に合唱されたら、トム・ヨークでなくても、さすがにうんざりしてくるだろう。「creep」を日本語訳すれば「嫌な奴」や「気味の悪い奴」。「ウジ虫」なんて意味まで含んでいる。

レディオヘッドは2枚のアルバムを出し、分裂して解散する可能性が少なからずあった。

デビューから3作目の呪縛

村上龍の長編2作目『海の向こうで戦争が始まる』のあとがきにこんな文章がある。うろ覚えだ。記憶違いがあるかもしれない。たしか、こんな内容だった。

『海の向こうで戦争が始まる』を書き終わった夜、村上龍はバーでリチャード・ブローティガンに会った。ブローティガンは「大事なのは「3作目だ」と言った。「デビュー作なんて体験で書けるだろ? 2作目は、1作目で得たテクニックとイマジネーションで書ける。この2つを枯渇した場所から作家の戦いは始まるんだよ」

小説も音楽も、表現芸術という点では共通点があると思っている。

その後、村上龍は3作目で『コインロッカー・ベイビーズ』という代表作を書き上げた。

90年代を代表するアルバム『OK コンピューター』の誕生

97年、エイフェックス・ツインやオウテカに代表されるエレクトロニカ・IDMを今までのサウンドに取り入れた「OK コンピューター」を発表する。批評家から絶賛され、98年グラミー賞の最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞を受賞した。

このアルバムでレディオヘッドは「レディオヘッド」という唯一無二のポジションを確立したと言っていいだろう。

そして……次のアルバムへ

4作目の『キッド A』5作目の『アムニージアック』から見ると『OK コンピューター』はレディオヘッドが継続していくための過渡期に産み出された変種だったのかもしれない。

ナイジェル・ゴッドリッチがプロデュースに参加していなかったら、ジョニー・グリーンウッドがギターに固執するギタリストだったら、エド・オブライエンがノイズを駆使する空間系のギタリストでなかったら……「たられば」は禁句だと思うけれども……ひとつのピースでも欠けていたら現在のレディオヘッドは存在していなかったかった。

バンドを転がしていくのは、ゴールのないナイフの上を歩いて行くようなものだ。誰かが、何かが、尖った刃から零れ落ちれば、そこでバンドは終わりをむかえる。だからこそ、バンドは面白い。ひとりでは決して奏でることのできない奇跡の音場がステージに創られる、レコーディングの波形に刻まれる。バンドはただの集合体ではない。生き物なのだ。

レディオヘッドも例外ではない。


Pablo Honey
Radiohead
Capitol
1993-02-16

The Bends
Radiohead
Xl Recordings
2016-05-20



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yosh.ash

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