浮きも沈みもしないしょぼい人生にトラウマメタルを。というわけで、大槻ケンヂさん率いるロックバンド筋肉少女帯(以下、筋少)について語るシリーズ6回め。


・ノイローゼに怒りの鉄拳を『ステーシーの美術』

ステーシーの美術+6
筋肉少女帯
ユニバーサル ミュージック
2018-06-20


1995年のソロ活動期間を経て、久々にリリースされた作品。ステーシーとは、大槻さんの著した小説『ステーシー』のことで、当初は同作のイメージアルバムを想定して作られていたそうです。「美術」とありますが、特に絵画などが関係するわけでもなく、「グレイシー柔術」のもじり、とのこと。

いきなり、ブルース・リー主演の映画『ドラゴン怒りの鉄拳』のテーマで始まる・・・。2つ前のアルバムの1曲めが『おサル音頭』だったのと同じバンドとは思えん。この訳のわからない振り幅の広さ・・・というか、ぶっちゃけここから活動休止までのアルバムはすべて迷走している感じが拭えません。それがいいんだけど。

シングルで切っても良かったんじゃない?というくらいにポップでキャッチーな『おもちゃやめぐり』は、ヒーローのおもちゃ探しに恋人を無理やり付き合わせる歌。あ、シングルで切っても固有名詞が多すぎてテレビで歌わせてくれないか。'70年代前半にテレビ放映された特撮ヒーローの名前がたくさん出てきます。『デビルマン』『ライダーマン(仮面ライダー)』といった有名タイトルから、2ヶ月で打ち切られたという『突撃!ヒューマン』まで実に幅広い・・・。

『香菜、頭をよくしてあげよう』よりはだいぶマシだけど、モテない独りよがりな男の思考なんだよな、これ・・・。まあ、カルトな映画やオカルトの本に比べればだいぶ取っつきやすいジャンルなので、いちおう付き合ってくれる人は多いだろうけど、バースデイにはいい物をあげねばならない。

先行シングルの『トゥルー・ロマンス』は、蘇ったゾンビのラブソングですが、なんかあんまり印象に残らないな・・・。カップリングが『リルカの葬列(リミックス)』と『散文詩の朗読』で、ジャケットがアルバムとほとんど変わらないの、売る気ないでしょ。


『再殺部隊』は恋人を殺す宿命を背負った若い兵士のストーリーで、小説の『ステーシー』と併せて聴くとより楽しめます。様式美が満載なハードロック曲で、好きな人はたまらなく好きだと思います。


そして『星座の名前は言えるかい』は歌詞がすごくいい。


寂しいのかい?大丈夫
僕も寂しいから
哀しいのかい?大丈夫
僕も哀しいから

だから ねぇ
星座の名前は言えるかい
星の名前を言えるかい
マジシャンの名 呼べるかい?



本当に大槻ケンヂが書いた歌詞か?と思うほどに癒し系(死語)な内容なのですが、なんかわからないけど好きなのです。唐突にマジシャンが出てくる理由はよくわからんけど。当時の大槻さんは極度のノイローゼに侵されており、その克服のために空手を習ったりプレステの格闘ゲームにのめり込んだりしていました。このアルバムで『ドラゴン怒りの鉄拳』をカバーしているのもその関係から。自分を慰めるために作ったような歌。

結局は、自分の病状を受け入れることによって治す、という森田療法というもので鬱を脱出できたそうですが、ノイローゼ状態であった自身を励ます意図もあってなのか、こういうポジティブな歌詞が表れるようになります。この時期のソロ作品にそれが顕著なのですが、ソロは、特に2ndアルバム『I STAND HERE FOR YOU』はちょっと行き過ぎていて、もはや宗教みたいでキツイ。『星座の名前は言えるかい』くらいがちょうどいい。


ヤバめな鉄道オタク野郎が主人公の『鉄道少年の憩』が実質的なラストですが、今まで隠していた病状をここで一気に放出したかのような歌詞がとんでもない。


心は再び箱の中、薄桃色の肉の檻、
心はまたまた肉の奴隷、精神性など午睡の夢だ。



「自分同士で恋をするのさ。イカシタ恋をエンジョイするのさ」とイカレタ恋をエンジョイしながら、鉄ちゃんはアッチの世界へと逃げていく。明らかにまともな神経ではない。しかし、いくら現実逃避したところで、時間とともに列車は追いかけてくるのだ。闘わなければならない。というわけで、再び『ドラゴン怒りの鉄拳』を歌いながらアルバムは終わります。


・闘志も失くしたけど人生は終わらない『キラキラと輝くもの』

キラキラと輝くもの+6
筋肉少女帯
ユニバーサル ミュージック
2018-06-20


前作から半年ほどという短いインターバルで発売された作品。ジャケットイラストは江戸川乱歩先生の『パノラマ島奇談』の文庫本の表紙と同じもの。もちろんレジに持っていくのが気まずかったですね。

筋少史上最高にメロディアス、というようなことが帯に書かれていたような気がします(うろ覚え)が、実際にメロディーの引き立った曲が多く、前半はとてもキャッチーかつ名曲ぞろい。

同名の映画を題材に「人生はそう悲しくプログラムされてはいない」と結論づける『小さな恋のメロディ』、当時の大槻さんが心酔していたシャーロック・ホームズ(といっても、ホームズが実はひどいヤク中であったこと、コナン・ドイル氏が本格的なオカルト信奉者であったことなどをネタ的な意味で楽しんでいた)の世界観が投影された『機械』、「大好きだよ君が」とベタベタなサビで密かにヒットしないかと思っていたらしい『僕の歌を総て君にやる』、そして真ん中に据えられた9分超えの大曲『サーチライト』の自嘲がものすごい。


やあ!詩人 最近なんだかマトモだなあ?
やあ!詩人 随分普通のこと言うなあ?
やあ!詩人 奇をてらったりしないのかい?
やあ!詩人 世の中すねてる歳でもないかい?

なんか賞でも欲しいのかい?
あんた何様のつもりだい?



ずいぶん普通のことを言っている(いや、君が好きだから著作権を譲渡する、っていうのは普通ではないかもしれんが)『僕の歌を総て君にやる』と、やっぱり大槻ケンヂはまともな人ではないと思い止まらせてくれる『機械』の次にこれが来る高揚感、と、喪失感。


で、こういう人生のまとめ的な曲に続くのはたいてい脱力ソングなのが筋少のアルバムなのですが、老人ホームで55年越しの恋をするじーさんの歌『そして人生は続く』から後半部分がまったりと始まります。『ザジ、あんまり殺しちゃダメだよ』はタイトルこそ物騒ですがとても牧歌的なグラムロック。というかT.Rexの『Metal Guru』だ、これ。T.Rexのメンバーのミッキー・フィン氏の名前が出てくるので、おそらく故意的なパロディー。ザジという人物は大槻さんの小説『ロッキン・ホース・バレリーナ』にも出てくるのですが、関係あるのかな?



7歳のモコちゃんに延々と語りかけている『お散歩モコちゃん』は、昔はよくわかんなかったけど、実はかなり電波だ・・・。モコちゃんって男子なのか女子なのか?ピコピコ音が時代を感じさせるけど、これ'96年としては新しかったんだろうな。

お別れの歌『冬の風鈴』でアルバムは寂しく幕を閉じます。この時期あたりからメンバー間の関係がギクシャクしていたらしく、レコーディングも別行動が多くなったとのこと。実際に、ここで終わっていもおかしくなさそうな終末感があります。

次回で最終回です。

この記事を書いた人

henkou_ver


プラーナ

サブカル中二病系。永遠の14歳。大人のお子様。

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