銀杏BOYZというロックバンドの歌詞に、


あいつらが簡単にやっちまう30回のセックスよりも
「グミ・チョコレート・パイン」を青春時代に1回読むってことの方が
僕にとって価値があるのさ



というフレーズがあります。2005年のアルバム『DOOR』に収録されている『十七歳(...cutie girl don't love me and punk)』という曲のフレーズですが、このアルバムが発売される前に、すでに『グミ・チョコレート・パイン』を読んでいました。それも、17歳の頃。もっと正確にいえば、最初の「グミ編」を読んだのは14歳の頃で、続編の「チョコ編」を読んだのは17歳の頃。最終作の「パイン編」はどのタイミングで読んだのか忘れてしまいましたが、たぶん20歳は越えていたと思います。


・人生はグミチョコ遊び。負け続けてたら置いてかれるぞ。



まず、『グミ・チョコレート・パイン』は、ミュージシャンで作家である大槻ケンヂさんが書かれた、自伝的な小説です。前述の通り、「グミ編」「チョコ編」「パイン編」と3冊にわたって出版されました。一応、どの順番で読んでも大丈夫な構成ではあるのですが、パイン編はかなり大きく展開が変わるので、グミ編とチョコ編はどちらからでも良いけど、ラストのパイン編は後で読む方が楽しめます。あと、個人的に、パイン編は少し期間を置いてから読むと、他の2冊と違う味わいがあるかも・・・と感じます。


タイトルの『グミ・チョコレート・パイン』とは、小学生がよくやる、あの遊び。じゃんけんをして、グーで勝ったら「グ・ミ」と2文字ぶんの2歩、チョキで勝ったら「チ・ヨ・コ・レ・-・ト」と6文字ぶんの6歩すすめるという、有名なアレ。ちなみに自分の地域では「グミ・チョコレート・パイン」じゃなくて「グリコ・チョコ・パイナップル」でしたが。正式名称は何と言うのだろう。全国的に流行っているから、アレを発明した人は凄いよね。『森のくまさん』の歌詞の語尾に「かんちょう」とか「ちん〇こ」とか付けた人の3倍くらい偉い。


人生とはその「グミ・チョコレート・パイン」のようなもので、グーでしか勝てなくてちょっとずつしか進めない人、チョキを出しまくってどんどん先に行く人、じゃんけんに負け続けて全く進めない人、そうしてみんな大人になって歳を取っていくのではないか、という、ヒロインの山口美甘子(やまぐち みかこ)のセリフが、この作品の大きな鍵となっています。


・真のダメ人間は悟っている。




主人公の大橋賢三(おおはし けんぞう)は、東京都内の黒所高校2年生。学校生活に楽しさを見いだせず、流行のアイドルや映画などに踊らされるクラスメイトたちを冷めた目で見ており、何の根拠もなく「自分には他人と違う何かを持っているはずだ」という確信を心に秘めているものの、実際はマニアックな映画の感想をひたすらノートに書いて家で自慰行為にふけるだけ、という、まあ一言でいえばダメ人間です。


今でもそうだと思いますが、学校のクラスって、ヒエラルキーが明確にありますよね。この小説は大槻さんの実体験をもとに描かれているので、実際に大槻さんが高校生だった1980年代前半ごろが舞台なのですが、当時も今もそのヒエラルキーはあまり変わらないと思います。


1、悪ぶっている奴ら。
2、流行に敏感で、恋バナやファッションに盛り上がる人たち。この層が最も厚い。今でいう陽キャ。
3、教室内の片隅でボソボソとアニメ談義をしている人たち。要するにオタク。
4、3にすら属せない、よくわからない・・・というか、存在をもはや認識されていない人たち。


そのピラミッドの中で、賢三は最下層の4に属する人物。1は怖いし、2みたいに他人に合わせられないし、3ならなんとか行けると思いつつも彼らのペースについていけない。結局は誰とも交われない。勉強やスポーツができるわけでもなく、イケメンでもない。他人より優れているものは、観た映画の本数と、弱冠17歳にして5478回という自慰記録。

それだけの回数をこなしていながら、憧れのクラスメイトの山口美甘子はオナペットにしたことがないという。「好きな子では抜けない」というアレですな。このへんの葛藤によって心身ともに疲れていく賢三の姿はアホくさくもあるのですが、ダメ男子なら同情を禁じえない。

チョコ編では、美甘子はクラスメイトを置いていってどんどん華やかな世界へと旅立っていき、賢三のコンプレックスがさらに加速。なんとか彼女に追いつきたいと、冴えない友人たちとバンドを立ち上げますが、そこでもまた打ちひしがれることに。

頑張れば頑張るほど、自分は何者でもなく、人生とはつまらないものでしかないのか、という不安に悩まされます。ダメ人間の17歳って、本当にそこまで思うんですよ。自分が宇宙一ダメな奴だと信じてしまう。

大槻ケンヂさんが率いるロックバンド、筋肉少女帯に『踊るダメ人間』という曲がありますが、その歌詞にはこんなフレーズがあります。


この世を燃やしたって
一番ダメな自分は残るぜ!



街中でイチャつくカップルを睨んで「リア充爆発しろ!」とか言っているうちはまだ、真のダメ人間ではありません。真のダメ人間は悟っているのです。DQNを全員ボコった後に突如あらわれた火星からのテロリストを打ち倒して地球に1人だけ生き残ったところで、ダメな自分に何ができるのかと。


・置いてかれても踊ってるよ。



『踊るダメ人間』のラストは「それでも生きていかざるをえない!」という台詞で結ばれています。

グミ編を読んだ14歳の頃はダメで、チョコ編を読んだ17歳の頃もダメで、最終章のパイン編を読んだ20歳くらいの頃も、やっぱりダメでした。でも、死ぬのは怖いので、生きていかざるをえませんでした。

このパイン編だけ、チョコ編からかなり間隔を空けて書かれています。チョコ編からパイン編までの間の大槻さんは、テレビに出まくっていたり、海外で変なキノコを食べて精神を病んだり、空手を習ったり、『新世紀エヴァンゲリオン』にハマったりしていました。このあたりはエッセイ『オーケンののほほん日記』『オーケンののほほん日記 ソリッド』に詳しいです。ちなみに自分の初オーケンはこの2冊でして、こちらにもめっちゃ影響を受けました。






10年ちかくが経過しての執筆なので、グミ編やチョコ編とは空気感が違います。端的にいえば、パイン編はオトナです。オトナな内容です。というか、まあ・・・オトナになる内容なんだよね。

ここで地味に面白いのが、作中ではモブキャラでしかない、クラスメイト各々の夏休みの出来事が描かれていること。話の筋には関係ない、陽キャやオタクの奴らみんなのエピソードが数ページにわたって。賢三はダメでアホだが、他の連中もみんなそれぞれに不器用だ。美甘子だって不器用だ。


だけど、生きていかざるをえないから生きていました。恥の多い生涯を送ってきました。


パイン編を読む前だったのか後だったのか。忘れたけど、グミ編を読んだ14歳の頃にはすでに活動していなかった筋肉少女帯が、再結成しライブツアーも行うというニュースをどこかで見ました。


当時できたばっかりだった、大阪の梅田クラブクアトロというライブハウスで、『踊るダメ人間』を踊りました。ダメ人間なので。踊っている場合なのかどうかはわかりませんが。ただ、筋肉少女帯のライブに行ける人生だとは14歳の頃は思っていなかったので、じゃんけんに負ける以前に参加すらさせてもらえなかったけど、ヌルヌルと生きていようと思いました。

この記事を書いた人


henkou_ver

プラーナ

サブカル中二病系。永遠の14歳。大人のお子様。

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