群馬県出身のベテランロックバンドで、ヴィジュアル系の先駆者のひとつでありながら、雑多な音楽性も兼ね備えているBUCK-TICK(以下B-T)について語るシリーズ13回め。


・ロックバンドになった。いや、元からそうなんだけど・・・『天使のリボルバー』

天使のリボルバー(完全生産限定盤)
BUCK-TICK
アリオラジャパン
2017-12-29


賑やかだった2005年を経て、2006年はシングル1枚のみと控えめ、そして2007年の下半期に入ってからリリースされた久しぶりのアルバム。

ミュージカルのような男女混声コーラスが眩しい(?)『Mr.Darkness&Mrs.Moonlight』や、『鏡の国のアリス』の世界観を下敷きにしたファンシーな『Alice in Wonder Underground』など、前作『十三階は月光』の空気感を思わせる曲もありますが、基本的には素直なロックアルバム。いや、素直ではないのかな・・・?
「狂いそうだ」と「クリームソーダ」を掛けたダジャレで1曲ぶんの歌詞を書き通した『CREAM SODA』は、またまた櫻井先生がご乱心。「ねえねえ 君って何てチャーミング ねえねえ君って何てキュート! 大 大好きさ 大好きなんだ 大 大好きさ 大好き!」・・・うーん・・・怖い。戸川純さんの「好き好き大好き」を思い出した。

先行シングルだった『Alice in Wonder Underground』は、当時よく聴いていて、お気に入りでした。というのも、大学の卒業論文の題目で『鏡の国のアリス』を読んでいる最中だったからです。作者のルイス・キャロル氏に関する文献も読みましたが、そこでわかったことは、ドジソン氏(キャロル氏の本名)は変な人だったということです。間奏では、前作の収録曲『DIABOLO』の冒頭のフレーズが出てきて、純真無垢なアリスを大人のイケナイ世界へと誘惑してきます・・・。   

いちおうタイトルチューンの『REVOLVER』はカチッとした正統派ハードロック。速い曲がラストに来るの珍しい。冒頭でやっぱりミュージカルみたいなコーラスがあって笑ってしまう。ただ、何気に最もわかりやすく、2004年の櫻井さんのソロアルバムの作風と、今井さんが外部で組んだLucyの作風が交錯している曲だと思います。

『十三階は月光』が苦手なのは、ソロ活動明け第1弾で手探りっぽかったのもあるかのかも・・・。対してこちらは重厚なバンドサウンド。5人みんな活躍している感じ。・・・なんですが、次作が好きすぎて、個人的にこのアルバムはなんだか霞んでしまうんだよな。


・生を楽しめ!『memento mori』

memento mori(完全生産限定盤)
BUCK-TICK
アリオラジャパン
2017-12-29


骸骨のジャケットに象徴されているように、人間の生と死をテーマにした・・・というか、それまでにも何度となくテーマにしていることなので、それだけにB-Tの根幹部分が垣間見えるアルバム。

タイトルに付けられた「メメントモリ」という言葉の意味については、有名なのでご存知の方も多いと思いますが、ラテン語で「死を想え」。強烈な語句ですが、人間はどう足掻いてもいずれは死んでしまうけれど、だからこそ、悔いのない生き方をしよう、という解釈も可能です。

アップル社を創業しiPhoneを発明したスティーブ・ジョブズ氏は生前にこの言葉を自らの信念としており、重要な決断をする際に、自分がたとえもうすぐ死ぬのだとしても同じことをするのか?その問いの答えがNOのままなら生き方を見直せ、と毎日のように言い聞かせていたとのことです。

また、どうせいつ死ぬかわからないのなら、今を思い切り楽しめ、飲めや歌えや、といった趣旨の「カルぺディエム(その日を摘め)」という、古代ローマの詩人であるホラティウス氏の言葉から生まれた考え方もあります。

B-Tの場合は、どちらかというと後者だと思います。次のアルバムの曲ではあるけど、『独壇場Beauty』に「神様は見ないふり それなら派手にやっちゃえ」「死ぬほど楽しめ踊れ 俺は笑って見ててやる」とあるので。

何気に、歌入りで15曲というのは初めてのこと。40代のおっさんくささは皆無で、めちゃくちゃ若々しい。冒頭の『真っ赤な夜-Bloody-』はおそらく史上最速チューン。

ファンキーな『Les Enfant Terribles』は、ジャン・コクトーの小説『恐るべき子供たち』の原題からの引用で「レザンファンテリブル」と読み、これも現代では「アンファンテリブル」という語句として広く用いられていて、子供であるが故の無邪気さと残忍性をもって大人を恐れさせるような行動などを指します。

いきなり「TOJO BABIES」というフレーズが出てきますが、TOJOとは、太平洋戦争(当時は大東亜戦争)を遂行したA級戦犯として処刑された、戦時中の内閣総理大臣だった東条英機氏のこと。「TOJO BABIES」は、現代ふうにいえば「JAP」に近い日本人への蔑称で、日本を見下していた当時のアメリカ兵にとっては、日本人はみんなトージョーベイビーズだったそうです。

続く「豹変するのがCABALLERO」は、敗戦後に掌を返した人々への皮肉かな?東条氏は戦争責任を取る意味で処刑されたとのことなので、A級戦犯と見なすのは冤罪という後年の見解があるそうです。ち
なみにCABALLEROとはスペイン語で紳士のことで、英語でいうGENTLEMENに相当します。スペインの男子トイレにはCABALLEROって書いてあるらしい。

で、こんな政治的(まあこちらが勝手に深読みしているだけで、実際はたいして意味ないのかもしれんが)な曲を、あたかも能天気に歌っているのが不思議。アンファンテリブルだのトージョーベイビーズだの物々しいワードを並べた後に「Oh Yeah!」の繰り返しなのだから、昔のマンガみたいに逆さまにズッコケそうになる。そしてこうだ。


Oh Oh 水も滴るBOYS&GIRLS
Oh Oh とろけそうなロマンス
Oh Oh 浮き世色めくBOYS&GIRLS
Oh Oh 粋に狂い咲け Oh Yeah



まさにカルぺディエムである(覚えた言葉はすぐに使いたがるタイプ) 。そういえば、五木寛之さんのエッセイ『みみずくの散歩』にあったエピソードですが、ソビエト連邦が崩壊した直後のロシアに旅立った際に、日本のテレビニュースでは緊迫した映像ばかり流れていたのに、いざ現地に着いてみると、普通にサッカーの試合やブティックのバーゲンセールが行われていて、市民は実にのんきに暮らしていることに驚いたそうです。



平成初期の頃のお話ですが、意外と人はいつの時代もカルペディエムに近いのかもしれません。でも、それは他人事ではないのかもなあ。大阪で大地震が起きてからまだ半年も経っていないというのに、すでにもう緊張感ないんだもん。

メメントモリとカルぺディエムの説明だけでもなかなか長くなったので、他の曲については次回。今井さんが「集大成だと実感した」と自負されている名作なので、まだ語り足りません。


・歴代順に他のアルバムについても書いていますので、よろしかったら過去記事もお願いいたします!

・酒とキラキラとビートロック-BUCK-TICK全アルバム紹介Vol.1-

・アイドル?からだんだん闇へ-BUCK-TICK全アルバム紹介Vol.2-

・闇の中で悲しみを・・・-BUCK-TICK全アルバム紹介Vol.3-

・闇よりも深い自滅へ-BUCK-TICK全アルバム紹介Vol.4-


・本格的な不安定へ-BUCK-TICK全アルバム紹介Vol.5-


・カオスの絶頂期-BUCK-TICK全アルバム紹介Vol.6-

・酒と被害妄想に溺れて-BUCK-TICk全アルバム紹介Vol.7-

・別のベクトルで壊れた?-BUCK-TICK全アルバム紹介Vol.8-

・電脳世界(?)へ-BUCK-TICK全アルバム紹介Vol.9-

・大人の事情も超えて生きていく-BUCK-TICK全アルバム紹介Vol.10-

・戦争と平和と櫻井と今井-BUCK-TICK全アルバム紹介Vol.11-

・盛りだくさんな2005-BUCK-TICK全アルバム紹介Vol.12-

この記事を書いた人


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プラーナ

サブカル中二病系。永遠の14歳。大人のお子様。

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