映画『ミツバチのささやき』は1973年に制作された。監督はビクトル・エリセ。主演のアナ・トレントの瞳が純粋すぎて、きゅんきゅんする作品だ。今でも、映画のオールタイム・ベストなんかで、多くの人に支持されている。『ミツバチのささやき』には、ちょっとした思い出がある。そんな話をだらだらと。

 

20代の前半だった。知り合いのバンドが、演奏と同時に映像を流したいと思っていて、なんだかんだとその企画に付き合った。今なら、著作権の関係でケチが付きそうな話だが、その映像に『ミツバチのささやき』の1シーンを選んだ。

ツタヤの枚方店で『ミツバチのささやき』を借りた。他には、曼荼羅かなんかのビデオだったと記憶している。そう、まだ、あの頃の映像メディアはVHSだった。編集は、大阪ビジネスパーク(OBP)にあるパナソニックの編集室を借りた。1時間あたり、どれくらいの値段だったのか覚えていないけれど、それほど高くなかったように思う。

『ミツバチのささやき』は、それ以前に何度も観ていた。ビクトル・エリセ監督が制作した『エル・スール』も観た。あの頃は、まだ『マルメロの陽光』は上映されていなかった。もちろん、アナ・トレントが出演している『カラスの飼育』も観た。『ミツバチのささやき』はスペイン映画だ。ハリウッドの綺羅びやかさもないし、フランス映画みたいなスタイリッシュさもない。ヨーロッパの小品は、どことなく古い日本映画に似ていた。

編集した映像をつかって、いくつかの場所でライブした。ファンダンゴや江坂のミューズあたりで。一人暮らしをしている友人や後輩にブラウン管テレビを借りて、ステージ横に何台ものテレビを置いて、同じ映像を流した。すべて手作業だった。ステージ裏に隠れて、タイミングよく、ビデオデッキの再生や一時停止のボタンを押した。ファンダンゴに、リアルタイムで映像エフェクトがかけられる機材があったが貸してくれず、ケチだな、と感じたことを覚えている。

そのバンドは、しばらくのあいだ活動していたけれど、メンバーそれぞれの個人活動が忙しくなって解散した。押し入れにしまってある大学ノートに、そのバンド用の歌詞をメモっているものがあったりして、ときどき懐かしい気持ちになる。映像だけでなく、作詞も担当していた。今、そのメンバーで、連絡がとれるのはひとりしかいない。

『ミツバチのささやき』からパクったのは、アナが姉のイザベルといっしょに線路に耳を当てているシーンだ。文章にしてしまうとなんてことない場面なんだけど、作品全体ではとても印象に残る1シーンだ。ことばでは説明できないって、他人への伝達をあきらめているように思われるかもしれないが、映画という芸術では最高の褒めことばだと思っている。

だから、何度観ても何度も観てもどれほど時間が経っても、『ミツバチのささやき』を冷静に語ることができないでいる。


ミツバチのささやき Blu-ray
アナ・トレント、イザベル・テリェリア、フェルナンド・フェルナン・ゴメス
IVC,Ltd.(VC)(D)
2015-06-19


※一時期は、国内盤DVDが廃盤になっていた不遇の時代があった。しかも、強烈に画質がわるかった。今は監督自らが監修したHDマスターを使用したBlue-ray版がある。素晴らしい…。

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