今回は1996年に公開されたベルギー映画、『イゴールの約束』を取り上げてみる。監督はダルデンヌ兄弟。父親に従属するように生きていた主人公の少年が、とある事故をきっかけにして自分の意志で行動しはじめる。地味だが考えさせられる映画だ。

『イゴールの約束』ってどんな映画?

15歳の少年イゴールは自動車整備工場で働いている。父親のロジェは不法滞在する外国人を相手に様々な斡旋をして暮らしている。もちろん違法な仕事だ。イゴールも働きながら父親の仕事を手伝う。自分の仕事よりも父親の仕事や都合が優先だ。そのため早退が重なり、工場をクビになってしまう。しかしイゴールは当然のこととして受け入れている。仕草やタバコの吸い方まで父親譲り。父親とお揃いの指輪をプレゼントされ、同じようにタトゥーを彫る。

イゴールの約束 [DVD]
ジェレミー・レニエ
角川書店
2012-03-23


ある日起きた不幸な事故でイゴールの行動は変わっていく。ロジェが使っていた不法滞在の労働者アミドゥが工事現場の足場から落ちて亡くなる。まだ息があったアミドゥのもとにイゴールが駆け寄ると、「妻と子どもを頼む」と呟いた。遅れてその場に駆けつけたロジェは、アミドゥを病院に連れて行こうともせずに人目に触れぬように隠して放置し、夜になってからコンクリート詰めにして埋めてしまった。罪悪感を感じるイゴール。

ロジェはアミドゥの妻には真実を告げず、子供を連れてここから離れるように説得するが、妻は「夫は必ず帰ってくる」と了承しない。業を煮やしたロジェは妻子をケルンにある売春組織へ売り飛ばそうとする。そこでイゴールは彼女たちを連れて逃げ出し、彼女たちのために奔走し始める。その先に待っていたのは胸のすくような顛末ではなかった、というのが大雑把なストーリー。本当に大雑把だけれど。

画面から感じるリアリティ

イゴールを突き動かしたのは決して純粋な正義感からだけではないと思う。しかし、どこまでも父親に従属していた彼が父親の行動に違和感を感じ、自分の感覚に従って動き出したのは父親から解放されるための第一歩だろうと思う。そうであると信じたい。

ちなみにこの映画の登場人物、イゴールやロジェ以外はほとんどが演技経験がまったくない素人だ。ダルデンヌ兄弟の「名のしれた、顔がわかるような俳優を使うと物語にリアリティがなくなる」というこだわりかららしい。


この映画はイゴールとロジェの親子の関係だけではなく、ダルデンヌ兄弟の目を通して見えてくるベルギーにおける不法滞在外国人の問題や、そこに関わる搾取する側の人間の生き様がとてもリアリティを持って描かれている。BGMすらなく、派手さはまったくない地味な映画だがいろいろな捉え方ができる良作だ。

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旅と音楽と本が好き。別名義でWebライターとして活動中。
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