『冬の龍』  藤江じゅん     福音館書店

冬の龍 (福音館創作童話シリーズ)
藤江 じゅん
福音館書店
2006-10-20


こちら
 には、詳細が載ってますが、これって児童ファンタジーの奨励賞だったんですね。
 ここに指摘されているように、この話がファンタジーでなければならない理由がないのは確かです。あくまでも現実を忘れてないところが、せっかくのワクワクを削いでいます。



 わたしはこの人の指摘とは別なところで、引っかかるところがありました。
 お寺さんの昔話が出てくるんですが、絵師の師匠をハメた弟子が、その師匠の妻を寝取ってしまって云々、という話は、この本にどうしても必要なエピソードだったんでしょうか?
 自分が調べたことを、どさくさに紛れて発表した、という印象が濃いですね。




 それに、「冬の龍」というタイトルなのに、ケヤキの精が重要な役どころ。龍そのものは最後まで出てこないんですよ。これって、看板に偽りありってところです。もっとも、
「これが龍にちがいない!」
 という暗示的なものは、実際に出てくるんですが。

 さんざん批判してますが、登場人物は、骨太のキャラクター造形がされていて、読ませます。
 主人公シゲルくんの、絶望感に取り込まれた世界。恵まれていない状況と、父親への不満、親がいないためにかえって自由がきくという皮肉。
 ワルガキ二人も、それぞれ個性がはっきりしています。なぜかこの二人のせいで、お寺へ肝試しに行く羽目になっちゃうシゲルくん。そのお寺で、ケヤキの精に出会うというストーリー展開です。






 絶望的な状況が、さらに悪くなるというケヤキの精の言葉を、戸惑いながらも受け入れていくシゲルたち。あくまでも現実を見据えつつ、その範囲でものを考えていくというスタンスを貫きつつも、ちょっと不思議な話が続いていきます。

 学校での調べ物の学習を応用して、お寺での伝説を調べまくるシゲルたち。子どもが相手だと、おとなはみんなこころを許しちゃう。いいよねー。子どもって。
 いい味出してるのが、図書委員の栗田さんです。このひとは、本に関わる仕事をしたかったのです。シゲルのいる『九月館』で、意外なことが起きて、栗田さんとシゲルたちもまた、交流することになります。




 五十嵐さんも、いい味出してますね。わたしはシゲルくんの次に、この人が好きです。
 シゲルと同じように、絶望の虫にこころを食い荒らされていたけれど、あることがきっかけで立ち直るようになります。

 ラストのあたりで、やっと見せ場が出てきますが、全般的に娯楽というよりは純文学系の童話のようでした。アクションはあまり出てきません。もちっとワルガキたちの活躍が見たかったかもしれないお話でした。


 あすにゃん
  猫とお菓子と広島がすきです!
 漫画家の たらさわ みちさんと 仲良しです。

 

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