今回は『ベッドタイムアイズ』(山田詠美)をチョイス。1985年に上梓された彼女のデビュー作でもあり、映画にもなって話題になった作品だ。当時は日本人女性と黒人男性の恋愛、ストレートな性描写などがやたらと取り上げられたが、本質はそんなところにはない、と今も思っている。

掴みはOK!引きずり込まれる出だしの一文

ここではストーリーの細かい部分には触れないことにしているが、私にとっての『ベッドタイムアイズ』は数あるラブストーリーの1つに過ぎない。しかし、文章や、行間に漂う空気はとても音楽的で、心理描写は至って端的で華美な装飾や無駄を全く感じさせない(音楽的な文章は後に直木賞を受賞した『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』に引き継がれていく)。出だしの一文は素晴らしい。これだけで心をぎゅっと掴まれ、そのまま小説の世界へ読者を引きずりこんでくれる。まさに「掴みはOK」としか言いようのない出だしだ。

ベッドタイムアイズ (河出文庫)
山田 詠美
河出書房新社
1987-08-01





日本人のジャズシンガーのキムと、在日米軍兵士のスプーン。出会ってしばらくして、スプーンは軍の脱走兵となって再びキムの前に現れる。2人の生活の描写にはストレートな性描写、ドラッグ、いわゆるフォーレターワーズが随所に出てくるが、私はそこには何の嫌悪感も感じることが無い。感情を爆発させるスプーンに振り回されながらも、キムも少しずつ自分のストレートな感情をぶつけるようになっていく。

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肉体から始まったつながりが、少しずつ精神的なつながりになっていくように見えながら、結局のところは本当に精神的につながれていたのかがわからないまま、スプーンは思いがけない形でキムのもとを去ってしまう。キムの喪失感は、スプーンが去った後、意外なきっかけで吹き出す。何度読み返してみても、言い方は悪いがセンセーショナルな内容ではなく、根幹は単なるラブストーリーだ。だが、それだからこそ心に刺さってくる。それがまだ10代だった私にはある種の衝撃だったのだ。ここからある時期までは山田詠美の小説・エッセイはすべて読んでいたくらいだ。

映画はというと……

映画の『ベッドタイムアイズ』も1人で見に行った。話題になった過激な性描写に興味を持ったのか、やたらと女性グループで観に来ていた人達が多かった。帰り際に席を立つと「あら、こんな映画を若い子が1人で観に来るなんて……」と聞こえるようにおばさま達に言われたが、「こんな映画」だと思って観に来ているほうが気持ちが悪いよ、と心の中で言い返したのを覚えている。

それはさておき、こちらは小説ほどのインパクトを受けることはなかった。気だるげな雰囲気を醸し出してはいたが、小説に感じたリズム感が薄れてしまっていて少し残念な気持ちになったのは覚えている。もし興味があれば観てみるのは悪くはない、と思う。でも、小説のほうがいいよ!ということだけは声を大にして言っておく。

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旅と音楽と本が好き。別名義でWebライターとして活動中。
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