2つ前の記事で河村隆一さんのお話をしたことで思い出したのですが、我が家にはそういえば1997年ごろになるまで「CDプレイヤー」なるものがありませんでした。ええ、遅いのですよ。なにせ、1998年まで黒電話が現役だったもので。そして、我が家が初めて所有したCD・・・それは、井上陽水さんの『GOLDEN BEST』です。ええ、それまでは図書館で借りていたのですよ。

GOLDEN BEST
井上陽水
フォーライフ ミュージックエンタテイメント
1999-07-28



そんな我が家の親が初めて買ったCDが、井上陽水さんの『GOLDEN BEST』です。・・・生協で届きました・・・いや、いいけど・・・。どうにも親にとってはCDショップに行ってCDを買うとかレンタルするという行為が、ナウでヤング過ぎる行為だったようです。徒歩圏内にTSUTAYAがあったんだけど。というのはともかく、200万枚以上を売り上げた大ヒット作です。

GOLDEN BEST SUPER
井上陽水
フォーライフミュージックエンタテインメント
2003-06-25


2003年にはライブ音源を追加した豪華盤『GOLDEN BEST SUPER』が発売されましたが、今回はあくまでもオリジナルのお話をします。

キャリア30年のカリスマシンガーのベストアルバム、当然ながら名曲だらけで、お馴染みのハスキーな美声と綺麗なメロディーが楽しめる全35曲。なのですが、自分が特に印象的だったのは、その「歌詞」です。難解なことで知られる陽水さんの歌詞ですが、まことに個人的な勝手なる解釈でつらつらと書いていこうと思います。


・ イヤな奴やウザい客にもとにかく「ありがとう」って言おう。最高にテキトーな感謝ソング『ありがとう』


奥田民生さんとのユニット、その名も「井上陽水奥田民生」と・・・限りなくそのまんまな・・・、で発表された曲で、当時のビールのCMに使われていました。

奥田さんと大槻ケンヂさんとデーモン小暮閣下(どういうメンツだよ)が陽水さんに招待されて訪れたバーで居合わせた事件。当時アイドルとして絶大なる人気を誇っていた宮沢りえさんがとある高名な作家(その方はもう亡くなられたそうですが、酔っ払うと人を逆さ吊りにする癖があったとかなんとか・・・)にちょっかいを出されていたところを野坂昭如さんが助けて、宮沢さんが野坂さんに「ありがとう」と言ったエピソードがきっかけでできた歌、とのです(大槻ケンヂ『オーケンののほほん日記』より)。



「微笑んでくれ」た人、「プレゼントくれ」た人、「微笑んでくれ」た人、いろんな人々にひたすら「ありがとう」と言いまくる陽気な歌で、感謝しまくりソングなのですが、2番のBメロが素敵です。


近い人 遠い人
やさしい人 つめたい人
好きな人 イヤな人
みんな みんな ありがとう Yeah!


身近にいる友達や家族には感謝を、やさしくしてくれた人には感謝を。好きな人にはもちろん感謝を。でも、感謝はそれで終わらない。遠くにいるよく知らん人にも、つめたくあしらわれてイラっとした相手にも、できれば口も利きたくないイヤな奴にも、「ありがとう」を言う。心が込もっていようがいなかろうが、とりあえずテキトーに「ありがとう」と言う。これぞ平穏なる世界。良くも悪くも、日本社会はタテマエとホンネの「ありがとう」でできている。そう考えれば・・・壮大な社会風刺ソングである・・・、って、『傘がない』のオチみたいに、ただ単に「ありがとう」って言いたかっただけかもしれませんが。


・キョロ充はつらいよ。『青空、ひとりきり』

ホーンセクションが明るく鳴り響く曲ですが、それに反して歌詞は内省的です。


楽しいことなら なんでもやりたい
笑える場所なら どこへでも行く
悲しい人とは 会いたくもない
涙の言葉で ぬれたくはない



楽しいのが正義、明るく笑って過ごそう。徹底的にネガティブを排除しようとする主人公ですが、「悲しい人」と会って話すと影響を受けることを自分でわかっているからそうするのでしょう。その理由はおそらく、何度も繰り返される「あの日の青空 ひとりきり」のフレーズに集約されているのでしょうが、あの日とはいつの時期なんだろう。幼稚園の頃?幼い頃の主人公は、友達のいない、ぼっちだったのかもしれません。公園の隅っこで1人で謎の砂のオブジェを作っているようなキャラだったのかも。


仲よしこよしは なんだかあやしい
夕焼けこやけは それよりさみしい
ひとりで見るのが はかない夢なら
ふたりで見るのは たいくつテレビ



1人で勝手に見ている夢の共有者はいない、でも同級生と話を合わせるために視ているドラマはクソツマンネ。でも「ひとりきり」にはなりたくない。楽しい人のふりをしないと。なんだか焦っている感じがします。今でいうキョロ充みたいだ。他人の目を気にしているのか「何かを大切にしていたい」と口先では言うけど、「我が身の明日でもない」と、実際は厭世的で、別に明日死んでもいいやー、ぐらいに思っている。

この人が本当に欲しくて大切にしていたいものは、1人の時間なのではないでしょうか。普段の生活に足りていない1人の時間。軽々しく「死にてえな・・・」とか言っちゃってもいい環境。まあそれでもこの人は結局は、明日も学校に(会社かもしれんが)行くのでしょう。まあ、無理しなさんな。




・無駄な時間を過ごせる幸せ。『長い坂の絵のフレーム』

ゆったりとした老後の生活を描いたかのような曲。


この頃は友達に 手紙ばかりを書いている
ありふれた想い出と 言葉ばかりを並べてる
夢見がちな子供たちに 笑われても 



この人は、結婚したり、子供を授かったり、それなりに働いて給料をもらえたり、それなりに休みが取れて遊びに行って思い出を作れたり、といった幸せはすでに手にしている人。住んでいる場所は遠くなったけど文通するくらいの仲が続いている友達も何人かいて、かわいい子供たちと住んでいる。


最近はデパートで孤独な人のふりをして
満ち足りた人々の 思いあがりを眺めてる
昼下がりは 美術館で考えたり



デパートに行く用事も、美術館で考えないといけないことも、本当は全くないのだけども、有り余った時間をそんなことに費やす。最高に贅沢な生活のように思えますが、寂しい気もします。この曲はもともと1998年のオリジナルアルバム『九段』に収録されていたのですが、1998年は陽水さんが50歳を迎えられた年で、もしかしたらこういう生活に憧れる価値観はその年齢に達しないと理解できないのかもしれない・・・。


誰よりも幸せだから
意味もなく悲しみまでが
長い坂の絵のフレーム



もはや達観されておられる。美術館に飾ってあった「長い坂の絵のフレーム」は、この人の人生なのかもしれません。坂のどこらへんに立っているのかよくわかりませんが、ずいぶんと見晴らしのいい場所まで上ったのでしょう。かくいう自分は・・・坂を上ってすらいない気がするな・・・。


・我が家で唯一、家族全員が共用しているCD。

これ以外にも、『少年時代』『Make-up Shadow』『傘がない』『氷の世界』『心もよう』『いっそ セレナーデ』などの代表曲を網羅しており、1枚めの時点でお腹いっぱいな全18曲。次回もまた、この2枚組アルバムの1枚めの歌詞について。

この記事を書いた人


プラーナ

24-6

サブカル中二病系。永遠の14歳。大人のお子様。






スポンサーリンク