鷺沢萠(さぎさわめぐむ)、と聞いてピンと来る人は恐らく私と近い世代の人だろう。今はきっと名前も知らないという人が、寂しいことだがほとんどだと思う。『少年たちの終わらない夜』は鷺沢氏の最初の短編集で、私にとっても思い出深い1冊である。

高校生にして作家デビュー

高校生の頃、放課後には街中の大きな書店か、レコード屋(時代がバレる……)で何時間も時間を潰していた時に、『少年たちの終わらない夜』と出会った。タイトルに惹かれるものがあり、パラパラとページをめくりながら著者紹介を見ると、私と同じ年である。高校生で作家デビューしてしまう人がいるのか!と驚いて少ないおこづかいをはたいて本を購入した。その後、『帰れぬ人々』で芥川賞候補になるのだが、今回の話からはそれるので置いておこう。





帰れぬ人びと
鷺沢 萠
文藝春秋
1989-10


頭の片隅に、文章を書いてお金をもらえるようになったらいいな、とうすぼんやりとした希望を持った高校生だった私は『少年たちの終わらない夜』を読んでびっくりした。他に的確な言葉はないかと考えたが、やはりびっくりした、が一番似合う。自分と同じ年齢で、自分たちの世代の若者のやんちゃさや、あの年代特有の繊細さが同じ目線の高さで丁寧に書かれていたのだ。まさに早出の天才とはこういうことをいうんだろうな、書かずにはいられなかったのだろうなと思うと、私のうすぼんやりした希望が粉々にされた気がした。

あの世代特有のやるせなさ

『少年たちの終わらない夜』は名門私立高校に通い、スノッブな仲間たちと遊びまわる少年、昼も夜も働きながらも常連になっている店で遊ぶ少年らの日常の遊びまわる様子を描いている。スノッブな高校生、勤労少年のどちらを描く時も鷺沢氏の目線は彼らと同じである。そしてあの年代特有のやるせなさを丁寧かつ繊細な筆致で描いている。私はすぐに彼女のファンとなって、その後に発表された小説も次々と読んだ。

その後もどんどんと鷺沢氏は本を出していくが、2004年に自宅にて自死してしまった。有名人が亡くなって泣いたことがあるのはミュージシャンくらいだったが、鷺沢氏の訃報を聞いた時には、泣いた。一説には思うようなものが書けないと悩んでいたという話もあるが、そんな年齢で自死しちゃだめだよ、何やってんだよ!という思いが溢れてきた。まあこれは余談である。

余談ついで、そしてどこで読むか

余談ついでに、鷺沢氏は深夜ラジオのようなエッセイを何冊か出している。読者参加型エッセイだ。読者はいかに鷺沢氏を笑わすかを考えて投稿する。当時一応は売文業の端くれにいた私は、これは絶対に笑わせられるというネタを投稿して、見事に名前とともにエッセイに掲載された。高校生の時のショックを1万分の1くらいはお返しできた気持ちになった。エッセイは今も大事に実家の本棚に置いてある。

『少年たちの終わらない夜』を読むのなら、イキった学生が大声で話しているような少しおしゃれなカフェがいい。彼らのおしゃべりをBGMに、今は「うるせえな、しょうがないか、ガキだから」としか思えなくなってしまった自分の分別くささを少し嘆きながら読みたい。だってあの年代の頃にはそんなふうには思わなかったからだ。読むのならば絶対にそんな場所がいい。

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旅と音楽と本が好き。別名義でWebライターとして活動中。
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