今回はベルンハルト・シュリンクの『朗読者』。映画『愛を読むひと』の原作としても知られる本作だが、とにかく救いがない。私は小説でも映画でも「なぜこんなに救いがないのか」という、一般的に言えば暗い作品をとても愛しているのだが、『朗読者』の救いのなさには初読時にショックを受けた。

インスピレーション買いした本がとんでもないことに……

『朗読者』はやはり近所の書店をふらついている時に見つけた。タイトルにピンときて、すぐに手にとってパラパラとページをめくることもせずに購入を決めた本だ。私のイメージとしてはもっとリリカルで、どこかにファンタジーの匂いがする気がしたのだが、これがとんでもないことになるとは思ってもみなかった。

少年が年上の魅力的な女性と関係を持ち、会うたびに「本を読んで」とせがまれる、この部分に関してはリリカルだが、その後、青年に成長した彼と彼女が再会してからは様相が一変する。やるせない、ひたすらやるせなくて、切なくて、まったく救いがない。

朗読者 (新潮文庫)
ベルンハルト シュリンク
新潮社
2003-05-28


救いがない作品が好きな私だが、さすがに読了した時にはあまりの救いのなさと切なさに呆然として、数日そのショックをひきずった。こんな小説にはそうそう出会わない。タイトルだけでこの本を引き当てた私はある意味慧眼である。そして『朗読者』がとても秀逸な作品であることには間違いない。そしてこの1冊を今はとても愛している。

『朗読者』が映画化!?

この『朗読者』が映画化される話を聞いた時には、こんな作品を映画にして、あのやるせなさと救いのなさを表現できるのだろうか?と思った。しかもハリウッド作品としての映画化。個人的にハリウッド作品に偏見を持っていて、ヨーロッパ系映画で、単館上映されるような映画を好む私としては心配だった。いまだ映画も観ていないのだが、観た人たちの感想を聞くと「やるせないけれど、とてもいい映画だった」という評価が多くて勝手に安心している。私もそろそろ頑固さを捨ててこの映画を観てみるべきなのだろう。

 

救いのない作品の魅力

私が救いのない小説や映画を好むため、暗いとよく言われるが、そんな作品にしかない魅力がある。シンプルにハッピーエンドを迎える小説や映画には魔法がかかっていて人を幸せにしてくれる。しかし、救いのない作品はほんの少しの歯車のズレや、抗うことができない時代の波によって少しずつ少しずつ物語が破綻に向かうのだ。実際に生きていたって、この歯車のズレからは逃げることができない。そんな時に人間がどうなっていくのか、どんな気持ちを抱くのかが表現されているのが魅力の一つだと思う。そしてやはり、私がどこか暗い人間だが、人間が好きなせいもあるのだろうとは思う。

この『朗読者』はぜひ眠れぬ夜に、コーヒーでも飲みながらくつろいで読んで欲しい。そこに繰り広げられるやるせない空気に眠れなくなってしまうかもしれない。それでも、それすらも舞台装置として読み進めて欲しい。さもなければ、ドイツのどこかのホテルのバーで遅い時間に強いお酒を飲みながら、だ。いずれにしても、この本を読む時には圧倒的な静寂が必要だ。

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