ここ数年行ってみたい場所がある。沖縄本島からさらに南下する八重山諸島だ。沖縄本島には行ったことがあるが、八重山諸島には足を踏み入れたことがない。八重山諸島も沖縄県に属するが、その文化や言葉も沖縄本島とは異なり、八重山独自の文化があるという。八重山諸島の中で一番メジャーな場所は石垣島だと思うが、私がどうしても行きたいのが波照間島だ。
日本の最南端、波照間島
波照間島は日本国内で普通に人が住むことができる最南端の島だ。波照間島を南下すればそこはもうフィリピンである。本やWEBで調べてみると、波照間島の人口は500人前後。島には信号もなく、自転車やバイクで島を一周できてしまうという。波照間島に行く方法はただ一つ、石垣島から船に乗ることだ。波照間島にも空港はあるが、現在は閉鎖されて使われていない。また、外洋に出て島を目指すため船の揺れも大きく、台風などで海が荒れればすぐに運休してしまうので、あまりにタイトなスケジュールで旅に出るのには向かないらしい。
南十字星と伝説とビーチ
波照間島といえば、日本では数少ない南十字星を観測できる島でもある。それ目当てで島を訪れる人も多い。そしてもう一つ心惹かれるのは、波照間島のさらに南に「南波照間島(パイパティローマ)」という島があるという伝説だ。1600年台、重税から逃れるために波照間島から南波照間島へ逃亡した、という記録もあるらしく、「南波照間島」は幻のパラダイスとして人々の心の中にあるという。何とも心揺さぶられる伝説だ。
もちろん、360度海に囲まれた島であるため、ニシ浜、ペー浜、ペムチ浜など白砂のビーチがある。残念ながら泳ぐことができるのはニシ浜のみであるが、そのビーチと海の美しさは素晴らしいと聞く。私は海が大好きなので、ニシ浜で遊んで、自転車で島内を気ままに移動し、夜は宿で泡盛を飲む、そんな数日間を過ごしてみたいと思っている。
海の見える場所で読んで欲しい小説『サウスバウンド』
そんな波照間島が登場する小説がある。映画にもなった奥田英朗氏の『サウスバウンド』だ。上下巻にわかれており、上巻では東京での生活の様子が描かれ、下巻では波照間島に近い西表島に移住しての生活が描かれている。どちらも軽いタッチでどんどんと読み進めていくことができる。特に下巻では八重山諸島に残る伝説についてもかなり触れられており、きれいな海の見える場所で読んだらとても気分が出そうだ。
ネタバレになってしまうので多くは書かないが、185センチという長身を持つ父親が東京では変人で困り者として扱われるが、西表島へ移住すると人が変わったかのように農作業や漁業に勤しんで、別の人間になったかのように描写されているのも面白い。しかしやはり変人(というには語弊がある気もするが)は変人、西表島でも騒ぎを起こし、母と2人で子どもたちを残し「南波照間島(パイパティローマ)」を目指す。
主人公は少年だが、少年なりの目で冷静に父や母を見ている。そして父をどこかで嫌悪しながらも、西表島に移住してからは父に対してある種尊敬の念を抱き始めるのがとても良い。そして少年は誰のペースにも巻き込まれることなく、自分の意志を曲げることもない。そこに父の遺伝子を感じるのは私だけだろうか?
とにかく、人の多い都会の街中ではなく、少し田舎で、海が見える気分の良い場所でこの小説をぐいぐい読み進めて欲しい。読み終えた後はなぜだか笑みが浮かんでくるような良い小説だ。きっと心の中に自分なりの「南波照間島(パイパティローマ)」を見つけることができるのだろう、と私は感じた。あなたあはどう感じるだろうか。
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