スパークルホース(Sparklehorse)の名盤にして1st『Vivadixiesubmarinetransmissionplot』に収録されている「Saturday」を歌うマーク・リンカス(Mark Linkous)の声を聴きたくなる。今日が何曜日でもいい。無性に聴きたくなるときがあるんだ。

ラストアルバム『ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル (Dark Night Of The Soul)』

最後のアルバムは2010年に発表された『ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル (Dark Night Of The Soul)』だった。名義はデンジャー・マウス&スパークルホース。

デンジャー・マウスは21世紀の名プロデューサーと呼ばれ、ベックやザ・ブラック・キーズ、ノラ・ジョーンズ、U2などのアルバムに名を刻み、自らもブロークン・ベルズで2010年のフジロックフェスティバルにも来日した。

このアルバムの特徴は全ての曲で誰かと共演していることだ。

ザ・フレーミング・リップス、ザ・ストロークスのジュリアン・カサブランカス、ピクシーズのブラック・フランシス、イギー・ポップ、デヴィット・リンチ、カーディガンズのニーナ・パーション、スザンヌ・ヴェガ、など。

とんでもなく豪華な面々。

誰をフィーチャリングしようともスパークルホースに揺らぎがない。それは最も印象の残る1stアルバムから一貫している。誰と演奏しようとスパークルホースの匂いには勝てない。残念だけれども、この最後のアルバム、作成者がこのアルバム発売日を迎えることは出来なかった。

スパークルホース(Sparklehorse)=マーク・リンカス

スパークルホース(Sparklehorse)はマーク・リンカス(Mark Linkous)のソロユニット名。ライブでバンドの形態をとるときも、あくまでもマーク・リンカスのバックバンドで、完全にこの2つはイコールで結びつけることが出来る。

日本で例えるなら……「CORNELIUS(コーネリアス)」=小山田圭吾みたいなものだろうか。コーネリアスは「猿の惑星」に出てくる考古学博士の名前から取られたものだけど、スパークルホースの由来は知らない。「綺羅びやかな馬」でいいのかな?……他に違う意味があるのかも……もし、何か隠された意味があれば教えて欲しいと思っている。

2010年の3月8日……

マーク・リンカスは2010年、3月8日に自らの命を絶った。47歳。遅すぎるデビューだったので、それほど多くの作品を残したわけではなかった。ただ、どれもが刺激的な曲ばかりで、一般の人だけでなくミュージシャンの心も動かした。

1996年に一緒にツアーし、スパークルホースの名前が世に広く知られるようになるきっかけを作ったレディオヘッドのメンバー、コリン・グリーンウッド。訃報を知ると、すぐに哀悼の文を公式サイトに掲載した。また、次のアルバムをレコーディング中で、その共同制作者であったオルタネイティヴ界の名エンジニア、スティーヴ・アルビニも自身のサイトに追悼文を……。

もし、完成していたら、どんなアルバムが……と期待される組み合わせだった。

デビューアルバム『Vivadixiesubmarinetransmissionplot』

1995年、アルバム『Vivadixiesubmarinetransmissionplot』でデビューした。ローファイな、いかにもUSインディーっぽいサウンドだが、れっきとしたキャピトル・レコードからのメジャーアルバム。

決してローファイ系に有りがちな荒削りな音ではない。シンプルではあるものの緻密な曲たちが並んでいた。これはひとえにマーク・リンカスの、前時代的なフォークの匂いを感じさせる気怠い歌声によるものだと思う。彼の声にはリスナーの心を掴んで離さない、生き様そのものが声の波形に凝縮されたいた。歌が魂だった。敏感な琴線のアンテナを持つ人を惹きこんでしまう魅力があった。

『Vivadixiesubmarinetransmissionplot(ビバディクシーサブマリントランスミッションプロット)』。この変わったタイトルは彼の見た夢が語源だと言われている。「Viva + dixie + submarine + transmission + plot」でいいのかな? 訳してみる。万歳、南北戦争時代のアメリカ連合国軍の行進歌、潜水艦、送信、策略。やはり意味は分からない。インタビューにも由来を答えているのだけれど、意味不明だ。バンド名といい、1stアルバム名といい、独特なひねくれ方であふれている。



1曲目、「ホーム・カミング・クイーン(Home Coming Queen)」。スローな曲。ローファイとかUSインディーとか、そんなジャンルは通用しない。3枚目で共演を叶えたトム・ウェイツをライトにしたような感じといえば分かりやすいと思う。

2曲目。「ウィアード・シスターズ(Weird Sisters)」。ドラムが入ってくるけれど、路線としては1曲目の延長。盛り上がりそうで、その直前で止めたようなアレンジが印象的だ。

3曲目。「850・ダブル・パンパー・ホリー(850 Double Pumper Holley)」 。ほぼ、朗読。30秒ほどで終わる。いかにも、ローファイらしい曲。

4曲目。「レイン・メーカー(rainmaker)」。「来た!」という感じのイントロから始まるキャッチーなUSインディーど真ん中を貫く曲。テンションが上がる。ここまでの流れが4曲目に向かっている曲順。3曲目までに地味なボディブローを繰り出し「レイン・メーカー(rainmaker)」でゲームを決めようという流れが見える。

その後、5曲目で1stシングルにもなった「スピリット・ディッチ(Spirit Ditch)」で完全にノックアウト。精神は捨てられてしまう。

スパークルホースで最も好きなアルバムを……と言われたら迷いなく、この1stを挙げる。初めて聴いたアルバムだからという理由もあるけれど、それだけではないような気がしている。1stには、そのアーティストの結晶が詰まっていると思う。

スパークルホース(Sparklehorse)の「Saturday」



マーク・リンカスが亡くなったというニュースを見た時、真っ先に聴いたのが「サタディ(Saturday)」だった。決して派手な曲でもなく、売れた曲でもない。個人的に1stアルバムの中で一番、彼の匂いが強いと思っているからかもしれない。とても良い曲だと思っている。名作家の掌編という趣がある。切なくも、やりきれないもどかしさが残る読後感。

何度も、何度も、聴いた。その日は、繰り返し、繰り返し、聴いた。

2010年の3月8日は月曜日だった。彼は「サタディ(Saturday)」の次の日に友人宅の庭で、拳銃の銃口を自らに向け、この世から消えていった。土曜日の昼下がりなど、このアルバムを無性に聴きたくなることがある。心の中で何かが渇望しているのだろう。音が流れてくると充足される。マーク・リンカスはCDの中では永遠だ。とても、哀しいことだけれど。

You are a car
You are a hospital
I'd walk to hell and back
To see your smile
On Saturday

「Saturday」(Sparklehorse)

Vivadixiesubmarinetransmissionplot
Sparklehorse
Capitol
1995-10-09


この記事を書いた人

yosh.ash

文章と音楽。灰色の脳細胞です。
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