インタビューの前編は、ナツメミオさんが2016年にネットプリントで配信していた毎月の「カレンダーについて」の話を中心にさまざまな質問をさせていただきました。中編では「デザインについて」、「影響を受けた人物や作品について」……さらに深いテーマを取り上げています。

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デザインについて

興味をもったのは、いつ頃ですか?

――カレンダーから話題を広げてみます。根本的な質問です。デザインに興味をもったのはいつ頃ですか?

ナツメミオ:デザインというものに本格的に興味を持ったのは、ここ3~4年のことだと思います。あまり知識が無かったので、本を読み漁ったり、実際に描いたり組んだりしてみて、勉強しました。

――3~4年ということは、比較的、最近なんですね。

ナツメミオ:そうなんです。基礎が無いので、今になって必死こいて勉強しています。もう、必死です(笑) 子どもの頃は漫画やゲームが好きだったので、小学生時代は漠然と漫画家になりたいなと考えていました。でも、ストーリーがあまり思いつかなかったので、中学に上がる頃にはイラストレーターが良いなと思うようになりました。と言っても、イラストレーターという職業がどういうものかもよく知らなかったので、絵を描くことが仕事になったらいいなー、と、漠然と思っていただけですが……。

――いやいや、小さな頃って、そんなものですよ。「ぼく(わたし)、○○○になりたい!」が普通です。それで、実際に何かやっていたりしていたんですか?

ナツメミオ:はい、中学の頃は、好きなゲームのキャラクターを描いては同人活動を楽しんでいました。具体的にどうしたら仕事にできるかということを考えていたわけではなくて、ただ、描いたり作ったりするのが楽しかったんです。

――楽しいと実感するのが基本だと思います。

ナツメミオ:でも今思うと、中学の頃から、いわゆる「絵画的な一枚絵」を描きたいという欲はほとんど無かったですね。便せんやメモ帳など「アイテム作るために絵を描く」ことが、好きでした。

――いろいろとやっていくうちに、自分の好きなことが分かってきたんですね。

ナツメミオ:そうですね。ただ、私の中では同人活動といえば漫画(同人誌)、というイメージが強くて、ろくに漫画を描けない自分に劣等感もありました。でもやっぱり漫画を描きたい気持ちはあまり起きなくて。それよりも、アイテムのために絵を描いたり、テプラやプリンターで印字した文字を配置したり、印刷時のインクや紙を選んだりすることの方が好きでした。

――テプラ!懐かしいです!しかし、それは漫画家ではなく、完全にデザイナーの方向だったのでは?



ナツメミオ:いえ、その頃はデザイナーになるということは全く考えていませんでした。というのも、当時の私には「デザイナー = ファッションデザイナー」という図式しか無かったので、グラフィックデザイナーやエディトリアルデザイナーなどについては、全く知らなかったんです。でも思い返してみると、案外、子どもの頃からこの分野に興味を持っていたみたいですね。今気づきました(笑)

――それは恐縮です(笑)

影響を受けた人物や作品について

――さて、それでは最も知りたいお尋ねを。現在の自分に影響を与えた人や作品です。何か、パッと思いつくものはありますか?もし、あれば、いくつか挙げていただけませんか?

ナツメミオ:本当にたくさんの方・作品から影響を受けているので、絞り込むのはなかなか難しいのですが……(笑)

――はい、かなり無茶な質問をしています(笑)


ナツメミオ:特に大きな影響を受けているなと思う方を、大きく3つの分野に分けて、何名か挙げていこうと思います。

――はい、3つの分野ですね。

アイデアストックやスケッチについて

ナツメミオ:まずはアイデアストックやスケッチについて。これに関しては、イラストレーターの杉浦さやかさんと、テキスタイルデザイナーの脇阪克二さんの影響を大きく受けています。

――杉浦さやかさんと、脇阪克二さんですね。※参考 杉浦さやか 脇阪克二

ナツメミオ
元々、子どもの頃から各種文房具やノート類は好きだったのですが、学生時代に「スクラップ帖のつくり方」という本を読んだことをきっかけに、気になったデザインやお洋服のスクラップをするようになりました。
スクラップ帖のつくりかた
杉浦 さやか
ベストセラーズ
2005-10

ナツメミオ:ノートを飾ることが目的ではないので、ただただ貼っていくだけ(時々メモ書きもしますが)の雑多なノートですが、何度も見返しては作品のデザインソースにしています。スクラップを始めてからは、より周りのデザインに対してアンテナを張ることが多くなり、アイデアの引き出しが増えていったように思います。

――ふむ、とても面白いです。こちらの興味アンテナも広がりました。順序としては、スクラップ帳をやってみた、日常にあるデザインへの感覚が鋭敏になった、スクラップしたノートでアイデアの引き出しが多くなった……そういう感じですか?

ナツメミオ:順序としては、少し違うかもしれません。日常にあるデザインへのアンテナが鋭くなったのはもっと後になってからのことで、今思えば、最初は「自分の好みを知る」作業が多かったように思います。

――「自分の好みを知る」作業ですか……。

ナツメミオ:はい。無意識に自分なりのフィルターを通したものを集めてしまうので、好みがなんとなく目に見えてくるようになってきまして。スクラップ帳をやってみるまでは「なんとなく可愛い」「なんとなくカッコイイ」「なんとなく良いなと思う」というような、で漠然とした感想しか持てなかったのですが、段々と自分の好みが具体的にわかるようになったり、言語化できるようになったように思います。

――確かに、自分の好みを知ることは、自分の土台を固めることにもなりますからね。

ナツメミオ:はい。スクラップ帳づくりの作業は、自分の土台を固めることに繋がっていたと思います。その上で次の段階として、なぜ良いと思ったのか、なぜ惹かれるのか、逆になぜあまり惹かれないのか、というように、考えながら周りに溢れているデザインを見ていく目が、少しずつ養われていったのかな、と。そんな風に分析しながら物事を見るようになった延長として、よりアンテナを張って周りのものを見るようになり(もっと面白いものがあるんじゃないか、という風に、色々なデザインを見たくなってくる)、結果としてアイデアの引き出しが増えていったのかなと思います。

――なるほど……。

ナツメミオ:ちなみにそのノートは、OZmagazinePLUS 特別編集「わたしのノートのつくりかた(2016年12月刊)」にも、再掲して頂きました。(※初出は2016年1月刊の OZプラス 2016年3月号「趣味ノートのつくりかた」)杉浦さんに憧れて始めたノート生活だったのですが、まさか同じ紙面に掲載して頂ける日が来るとは思ってもいなくて、出来上がった雑誌を見た時は感動しました。

――それは感動を超えた感動ですよ。(ぜひ、掲載された雑誌のバックナンバーを御覧ください)



ナツメミオ:スクラップは外部の情報を集めるため・自分の思考/嗜好を知るためのものであり、インプットの作業に当たるわけですが、アウトプットの作業も同時に行っています。主なアウトプットの方法は、各種ノートやほぼ日手帳(※Instagramにて公開中)へのスケッチです。これに関しては脇阪さんの影響が強いです。
※参考 Instagram:@misosJP

――インプットとアウトプットが同時。それは、スクラップ帳に貼るものを選ぶ時点で、自分の趣味趣向が出てしまうという意味合いも含まれているのでしょうか?

ナツメミオ:というよりは、咀嚼して自分の中に入れるための作業と言った方が正しいかもしれません。アウトプットをその言葉のまま捉えるなら「出力」なのですが、私としては、インプットしながらアウトプットしている(どちらの作業にも区切りは無く、全て循環している)、というイメージなんです。

――インプットとアウトプットの境目がない、ということですか。

ナツメミオ:はい。もちろん、見た目としては新しいイラストやデザイン・文字を描いているので、その様子自体は「出力したもの」に見えるんですけどね。でも描いている本人は、描きながら「ここをこうすると良いラインになるのかー(だからあのデザインはああいう線にしていたのか)」とか「あのデザインを参考にこういう配色にしようと思ってたけど、この場合はもうちょっと明度を上げた方が良くなりそうだな(モチーフによって配色から受ける印象が変わるな)」とか考えているので、アウトプットしながらインプットも同時にやってる、という感覚です。

――循環した、同時進行という捉え方は、とても面白いです。杉浦さんの本がきっかけとなったスクラップ帳……そこに脇阪さんの影響も入ってくるわけですか?

ナツメミオ:そうですね、そんな感じです。脇阪さんは元マリメッコのデザイナーで、現在はSOU・SOUのテキスタイルデザイナーとして活躍されている方です。脇阪さんのすごいところは、25年以上もの間、奥様へ宛てて一日一葉の絵はがきを描き続けているということです。すでに1万枚もの数にのぼっているとのことですから、本当に圧巻です。それらすべてが、アイデアソースになっているそうです。

――25年以上で1万枚の絵はがき……ちょっと想像もつかない時間と枚数ですね。
※参考 365日×25年=9125枚


ナツメミオ:私もそれに触発されて一日一絵(※現在は絵だけでなく文字デザインなども行う)を始めたのですが、体調の落差が大きいため、休むこともしばしば。2014年から始めたというのに、(ナンバリングしているスケッチに関しては)情けないことに未だ365枚手前までしか描けていません。せめて1000枚までは続けたいなと思っているので、地道に描き溜めていこうと思っています。スケッチの一部は、「ほぼ日手帳公式ガイドブック2017(2016年8月発売)」にインタビューと共に掲載して頂いておりますので、よろしければご覧頂けると嬉しいです。

――どんなに元気な人でも、体調だけでなく、さまざまな用事があったりして、なかなか続けるのは難しいことです。また、強い意志を持っていたとしても、実際に行動するまでには大きな壁があると思います。一日一絵。言うは易く行うは難し、ですよ。365枚手前でも、スゴイ!と思ってしまうのは、わたしの根気がダメダメなんでしょうね(笑)

ナツメミオ:私の場合はSNSから離れたくなっちゃう時が度々あるので、余計にSNSで発表しているノートたちは、枚数が増えていかないのかもしれません(笑) 一人でひたすら、本を読んだり描いたりしていたくなることが多いので。

――それを聞いて、少し安心しました(笑)……続けるという点で意識していることは何かありますか?
(ぜひぜひ、「ほぼ日手帳公式ガイドブック2017」も御覧ください)


ナツメミオ:「描く・つくる ことを続ける」ということに関しては、今も何度も思い返しては、自分に言い聞かせるようにしている言葉があります。脇阪さんの著書「脇阪克二のデザイン(パイ インターナショナル刊)」の中の一節です。

『もういやだ、やめたいと思ったことは何度もあるが、描けなくても描く、惰性でもいいから描く、とにかく描き続ける。すると、ある日突然、新しい世界が開ける感覚を味わうことになる。』

「脇阪克二のデザイン」より引用


ナツメミオ:幼い頃から、座右の銘は「継続は力なり」だったのですが、そういうところが、カレンダー配信や作品を発表し続ける原動力になっているのかもしれません。

――惰性でもいいから描く……この一節がイイですね。確かに、続けることによって新しい世界が開けるのは、どのようなジャンルや職種でもあると思います。デザインに限定した話ではありませんよね。


後編に続く→

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