捨てられない1冊の本がある。佐藤さとる『ファンタジーの世界』。講談社現代新書だ。昭和53年、第一刷発行。もちろん、表紙には村上勉さんのイラストが描かれている。講談社文庫から発売されていた『だれも知らない小さな国』などのコロボックル物語のシリーズや、「佐藤さとるファンタジー童話集」を読んだあとに買った。



『ファンタジーの世界』の目次

この本は、佐藤さとる自身のファンダジー(メルヘン)論が書かれているのだけれど、それだけでなく、創作の源泉について言及している。また、名作の紹介と分析ではファンタジー文学への入門書といった側面もある。とにかく、面白い。なぜ、講談社現代新書で絶版になっているのか分からない。目次を抜粋してみる。

1.私のコロボックル
2.空想からファンタジーへ
3.ファンタジーとは
4.ファンタジーの創り方
5.ファンタジーを読む
6.児童文学について
7.おわりに

引用:『ファンタジーの世界』(佐藤さとる)の目次より

おおまかに流れを要約すると1章は『だれも知らない小さな国』という物語ができるまでが語られている。元になった「井戸のある谷間」と、姉妹作である『てのひら島はどこにある』の話だ。佐藤さとるのファンなら、この1章だけでお腹がいっぱいになる。



5章「ファンタジーを読む」

2章から4章にかけては、佐藤さとるのファンタジー論。ものすごく頭をくすぐる刺激的な内容だ。メルヘンとファンタジーの違いについては、今でも小説を読む際の基盤になっているような気がする。5章で、さまざまな小説が例に挙げられていた。主な作品を並べてみる。

  • 『不思議の国のアリス』(ルイス・キャロル)
  • 『クマのプーさん』(A・A・ミルン)
  • 『ナルニア国物語』(C・S・ルイス)
  • 『さすらいのジェニー』(ポール・ギャリコ)
  • 『風の又三郎』(宮沢賢治)
  • 『あべこべ玉』(サトウ・ハチロー)
  • 『砂の妖精』(E・ネズビット)

ここまでの作品は、ひとつひとつ丁寧に解説されている。上から5冊目までは映画化などもされ、現在でも入手できると思う。追記しておくなら、『あべこべ玉』は、当時、『あべこべ物語』とタイトルを変えてふくろう文庫(講談社)から復刊していた。『砂の妖精』の著作は、イーディス・ネズビットの方が探しやすいかもしれない。オススメは翻訳が石井桃子さんのバージョンだ。

この章の最後には代表的な秀作として、2~3行の文章を加え、追記されていた。

  • 『ホビットの冒険』(J・R・R・トールキン)
  • 『床下の小人たち』(メアリー・ノートン)
  • 『トムは真夜中の庭で』(フィリッパ・ピアス)
  • 『幽霊』(アントニア・バーバ)
  • 『木かげの家の小人たち』(いぬいとみこ)
  • 『指輪物語』(J・R・R・トールキン)
  • 『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』(リチャード・アダムス)
  • 『壁抜け男』(マルセル・エイメ)
  • 『不思議な少年』(マーク・トウェイン)

最初の5作品は少年少女向きの本だ。後半の4作と、一応、区切られている。そこの境界線はないと前置きした上で。他には、SF系としてレイ・ブラッドベリやフレデリック・ブラウンを。また、レイモンド・チャンドラーの名前まで。佐藤さとるさんが幅広い範囲の読者であったことが、よくわかる。ここに『だれも知らない小さな国』を入れたら完璧だと思う。


空想は最高の遊びだ!

4章の最後あたりに、このような意味合いの文章がある。これらの小説(上に挙げた作品)を夢中になれなければ、自分にはファンタジーの要素はないと思っていいよ。なくても、いいのだけれどね。現実を生きる人間には不必要なものなのかもしれないから。決して、非ファンタジーを否定するわけではない。そして、このような文章で終わっている。

(前省略)……しかし人生の大きな喜びの一つをはじめから失っているのは、じつに気の毒という気がする。

引用:『ファンタジーの世界』(佐藤さとる)P142より

空想は最高の遊びだ。誰もが、小さな頃は、空想と仲良く遊んでいた。空想は最高の友だち。年齢や性別に関係なく、そんな友だちを忘れてはいけない。夢を見る空想は、何歳になっても大切だ。そう、思っている。佐藤さとるの『ファンタジーの世界』。もっと多くの人に読まれてほしい本だ。もちろん、今、手元にある講談社現代新書は表紙の端っこも赤茶けてボロボロだけど、絶対に捨てない。捨てられない。



この記事を書いた人

yosh.ash

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