・名前は可愛いけど、ぜんぜん可愛げのなかったメリーさん
結成当時、かつて一世を風靡した大御所ヴィジュアル系バンドがことごとく解散や活動休止、インディーズ回帰などを行い、Gacktさんがお茶の間の人気者になっていた以外は、公にはヴィジュアル系は過去のものとなりつつありました。もちろん、そんな中でも、数年後にメジャーデビューする次世代のバンドさんたちが水面下で頑張っていたのですが。
その水面下の雰囲気も、かつては(ブレイク時のSHAZNAのIZAMさんは例外中の例外で異端)あり得なかったような、キラキラしていて、くぁわゆい♡「男の娘」バンドマンが増えました。昔のヴィジュアル系だって「女形」と呼ばれる女性っぽいルックスのメンバーはいたものの、あくまで尖ったバンドの雰囲気に一輪の華を添える存在だったのが、バンド一丸となって手弱女振りを体現するのが当たり前になっていました。そのようなシーンの中で、メリーは全くもって可愛げなく、トンガっていました。
・オーディエンスをドン引きさせることにこだわったガラさん
ボーカルのガラさんは当初は「歌以外ではあまり声を発しない」という設定で、ライブでは、即興で半紙に筆でメッセージを書いて伝えていました。インタビュー記事では彼の発言だけ字体がユラユラと揺れて幽霊のセリフのようになっていたり(『世にも奇妙な物語』のタイトルの字体。アレです)、ドキュメンタリー映像などではピー音で消されてテロップ表示になっていました。
口から卵などを吐いたり、墨汁を飲んじゃったり(もちろん当て振りです・・・たぶん)、往年のパンクバンドの伝説を思わせるようなパフォーマンスを繰り返し、当時のライブを観たことはありませんが、まだ結成されてさほど経っていなかったにもかかわらず、雑誌「FOOL'S MATE」でよく取り上げられており、この人はおかしいと思いました(オカシイという意味であろうと可笑しいという意味であろうと、ヴィジュアル系というジャンルに対しては褒め言葉だと自分は考えています)。
ただ、活動が進むにつれて、そのような奇を衒ったパフォーマンスは徐々に減り、ガラさんも普通に喋るようになりました。アンダーグラウンドの匂いは残しつつも、オサレ系に近い方向へと変遷していきます。その過程として最もわかりやすいのが、メジャー2ndアルバム『PEEP SHOW』です。
・オサレになっても謎のこだわりは健在『PEEP SHOW』
回文や駄洒落を織り込んだ歌詞はナンセンスでもあり、無意味にオサレです。「墨汁」のことを「インク」と呼ぶ感じのオサレさ、と書けば伝わるでしょうか。シングル曲『さよなら雨(レイン)』などにそれが見受けられます。「雨」ではなく、一々「(レイン)」と英語のフリガナを付ける、無駄にも見えてしまうオサレさ。「いちいち」を「一々」と書いて頭よさげに見せるのと通じるものがあります。このあたりの謎のこだわりこそがヴィジュアル系。
こう書くと捻くれているようですが、後半に配置された1分半の小品『PLTC』などはストレートにパンキッシュ。
大量生産 消費 ストレスばかりが溜まっていく
何度もそううまくはいかない 何度もそううまくはいかないはずさ
・・・なのだけど、呻き声のようなメッチャクチャな歌い方をしていて、歌詞カードを見ないと何言ってるのかさっぱりわかりません。この不可解な凝り方こそがヴィジュアル系なんです。
確かに、ストレートなメッセージを込めた音楽も良いものです。だけど、こんな、説明するのがめんどくさいような二転三転なアプローチをした音楽もあって良いではありませんか。それをこのような場所で、やたら興奮して説明しようとする自分みたいな変態がいても良いではありませんか。ああ、この興奮をもっと上手に説明できる才能がほすい。才能が売ってるなら俺が買いたいわ。ちなみにこの最新アルバムも、『PEEP SHOW』とは雰囲気がガラッと(駄洒落ではない)違うけど、パンキッシュでいいよ。でも『PEEP SHOW』がいちばん好き。
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