『文章読本』の始まりは谷崎潤一郎。1934年に出された本。当時の文壇では賛否両論だったようだ。現代風に喩えれば「知的な炎上」や「小さな世界でバズる」みたいなものかな。谷崎潤一郎に続いて、菊池寛、川端康成、伊藤整、三島由紀夫などが文章読本を発表した。

現在でも、小説のハウツー本は数多く販売されている。バサッと切っちゃえば、読者視点と書き手視点に分類される。まあ、本を読むにしても、文章を書くにしても、基本としては日本語を鍛練するという点では一致していると思う。読む、書く、どちらでもいい。日本語が楽しくなる文章講座の本を紹介してみる。少々、偏食気味なチョイスだけれどね。



ここからは完全に個人の主観。1冊ずつ、短い感想を付け加えておく。正確に言えば、文章の読み方と書き方を教えてくれる、わたしのオススメ本だ。

『文章読本』谷崎潤一郎

元祖だから挙げたわけではない。内容がイイんだよね。本(小説など)の敷居を低くして読者層を広げたいという意識があったように感じる。それが文壇で批判された点なんだろう。ただ、『文章読本』そのものが谷崎潤一郎の作品として成立している。まあ、谷崎潤一郎の美意識ってやつだ。1939年に書かれた『陰翳礼讃』とセットで読むべし!

文章読本 (中公文庫)
谷崎 潤一郎
中央公論社
1996-02-18


『それでも作家になりたい人のためのブックガイド』絓秀実・渡部直己

作家(小説家)ではなく評論家が書いた文章講座。同じく共著で『新・それでも作家になりたい人のためのブックガイド』も発売された。内容は一言で辛口。有名な作家の作品を斬りまくっている。斬り方の幅が広くて刺激的である。それぞれ、1993年と2004年に刊行された本なんだけど、現在でも第一線で活躍している作家も、めちゃくちゃに斬りまくっているので、ファンの方はご注意あれ。



『一億三千万人のための小説教室』高橋源一郎

2002年の岩波新書。本題に入るまでが長い、長い。これ、絶妙なタイトルになっているんだよね。決して、小説の書き方講座ではない。NHK風に書くならば「しょうせつであそぼ」である。しかも、前置きがメイン(だと思っている)なので、あらゆるジャンルの方に通じる内容だ。意外に文章を書く(書こうとしている)人に向いているような気がする。高橋源一郎らしい捻れのある小説寺子屋。



『書きあぐねている人のための小説入門』保坂和志

捻れ度では保坂和志も負けていない。理論武装して難解な思考を展開できるのに、ぐるりと一周して、あえて「何も起こらない静かな日常」を描いて、文壇に出てきた保坂和志である。そんな保坂和志の思考が分かりやすく説明されている。自らの「創作ノート」付きのサービス満点。知の部分を気に入れば『世界を肯定する哲学』(ちくま新書)、小説が気になれば『プレーンソング』や『草の上の朝食』あたりを読んでみると良し。



日本語って……

他の言語とくらべて難しいけど、面白い。日本語を読むにしても、書くにしても、話し言葉を聞くにしても、読解力は大切なスキルだもんね。1冊の本で、自分の世界が広がるなら最高だよ。それが2冊、3冊と増えていけば、もっと楽しくなるはず。ねえ、そう、思わない?


この記事を書いた人

yosh.ash

文章と音楽。灰色の脳細胞です。
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