スティーヴン・ミルハウザーのデビュー作が『エドウィン・マルハウス』。1996年、スティーヴン・ミルハウザーは『マーティン・ドレスラーの夢』でピューリッツァー賞を受賞する。短編集『バーナム博物館』収録の「幻影師アイゼンハイム」は2006年に映画化された。



スティーヴン・ミルハウザーとの出会いは1989年

1989年の春、「アメリカ青春小説特集」と題された雑誌が小説新潮の臨時増刊として発刊された。表紙の下半分にはアメリカの片田舎で行われてるらしい草野球の遠景の写真が載せられている。キャッチコピーは「1989年、サリンジャー70歳。伝統は新しい世代に引き継がれた」。内容は題名の通りだ。

長編は「潮騒の少年」(ジョン・フォックス)が、あとは短編が数編、掲載されていた。それに幾つかの特集。「アメリカ青春小説を一冊選んで下さい」では島田雅彦やピーター・バラカンが寄稿していた。対談は高橋源一郎と青山南が現代アメリカ文学について熱く語っている。

カラーページには「アメリカ作家の仕事場」としてジェイ・マキナニーなどの仕事場の写真と執筆についてのインタビュー記事が載っている。作家に限らず、仕事場の雰囲気って良いよね。その他にもエッセイやバリー・ユアグローなどの掌編の翻訳などがある。

スティーヴン・ミルハウザーの名を見つけたのは「現代アメリカ作家人名録」と銘打たれた50人の紹介記事だ。有名どころはポール・オースターやジョン・アーヴィングあたりの名前があった。50人のなかで唯一、顔写真が掲載されてない人がいた。それがスティーヴン・ミルハウザー。顔写真の欄には、こんな文章が添えられていた。

世捨て人的な作家らしく、この人の写真は入手不可能

もう、これだけで完全に惹かれてしまった。

『エドウィン・マルハウス』を読んだのは1990年

残念なことにこの時点(1989年)で翻訳は1冊もなかった。それが翌年、一気に3冊、出版される。当然、すぐに手に入れた。

『イン・ザ・ペニー・アーケード』(白水社 訳:柴田元幸)
『エドウィン・マルハウス』(福武書店 訳:岸本佐知子)
『バーナム博物館』(福武書店 訳:柴田元幸)

どれも完璧だった。スティーヴン・ミルハウザーが紡ぎ出す緻密な世界観にハマった。柴田元幸のあとがきを借りるなら<一個の閉じた「世界」の描写>の虜になった。短編集『イン・ザ・ペニー・アーケード』の表題作と長編『エドウィン・マルハウス』は何度も読んだ。

大好き。スティーヴン・ミルハウザーの小説に対して。この言葉が最も適していると思う。「すごい」でも「かっこいい」でも「感動」でもなく、大好き。愛おしく胸に抱きしめたくなる作品が揃っている。

それは喩えれば、この上なく自分好みのクリームパンをゆっくりと味わうときの至福感に似ていると思う。これ、これ、これだよ。探してた理想のクリームパンは!クリームの味、匂い、そして粘り気、カスタード・クリームを包むパンの香りとやわらかさ。どれをとっても自分の好みそのものだ。

そういう感じ。

3冊の『エドウィン・マルハウス』

『バーナム博物館』は文庫化されたが絶版。『イン・ザ・ペニー・アーケード』と一緒の白水Uブックスとして復刊した。『エドウィン・マルハウス』は単行本だけですぐに絶版。手持ちの単行本を確かめたら1990年11月発行の初版だった。おそらく、再版していないんだろうね。

『エドウィン・マルハウス』も復刊した。一時期は幻の……なんて言われていたみたいだけど無事、白水社から単行本が発売される。しかし、これもしばらくして絶版。2016年に河出文庫で、再度、復刊した。3つの会社から再販された翻訳本は珍しいことだ。

エドウィン・マルハウス (河出文庫)
スティーヴン・ミルハウザー
河出書房新社
2016-06-04


『エドウィン・マルハウス』を未読の方は騙されたと……

……思って、スティーヴン・ミルハウザーの本を手にとって欲しい。小説との出会いはタイミングだ。タイミングがずれると、貴重な経験(脳内体験)を逃してしまうかもしれない。あえて、小説の内容やあらすじなどは伏せた。予備知識は邪魔になるからね。ぜひ、一読を。個人的おすすめ!

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yosh.ash

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